映画「夢売るふたり」

西川美和監督の新作映画「夢売るふたり」は、9月8日から公開されます。

映画の題名は一見かわいいけれど、「夢を売る」とは結婚詐欺という犯罪行為そのものであります。

映画の冒頭では、松たか子さんと阿部サダヲさん演じる夫婦がやっている小料理屋が火事になります。

すべてを失い、やけになる夫を案じる妻がひたむきに夫を支えて行きます。

妻は、ふとしたことから夫の意外な才能を発見します。

そして、都会で淋しく暮らす女たちから再起のための金を引き出すことを思いつきます。

「夫婦善哉」をやりたかったんですよ」と西川美和監督は語っていました。

たよりない夫としっかりものの妻が手に手をとって、仲睦まじく、間違った方向に漕ぎ出して行ったらすごく面白いと思って作ったそうです。

「夫婦犯罪」というタイトルも考えたそうです。

夫婦って不思議です。

夫婦が共謀する犯罪って実際にあるし何考えてたんだろうなって思いますけど、毎日の食卓では案外ふつうに会話してたりするんでしょう。

西川美和監督デビュー作の「蛇イチゴ」は香典泥棒でした。

「ゆれる」は殺人、「ディア・ドクター」は偽医者と、手がけた映画はすべて罪を犯す人間を描いています。

善人の仮面を剥ぎ取り、本来の顔をむき出しに見せて観客の心を捉えた作品ばかりです。

西川美和監督は、事件の記事を読んでも加害者のほうに近しいものを感じてしまうそうです。

女性を主人公にするのは今回が初めてです。

女性を描くことは強みの様ですが、苦手意識がありこれまで避けていたそうです。

やると決めたからには徹底しています。

松たか子演じる妻にはアパートで自慰にふける場面や、生理用ショーツにナプキンをつけて穿く場面が用意されています。

心のうちを語ろうとしない妻が、ゆれ動く内面を持つ生身の女であることを鮮烈に印象づけています。

夫役の阿部サダヲにだまされる風俗嬢の安藤玉恵さんの激しいセックスシーンもあります。

「ディア・ドクター」で主役を演じた笑福亭鶴瓶さんが、次作で女性を描くと聞き、AVの代々木忠監督のビデオを西川美和監督に渡したそうです。

試写を見た笑福亭鶴瓶さんの感想は「影響が）出すぎや」と笑ったそうです。

だまされる側の、ウエイトリフティングの選手役には本物の選手を起用することも考えたそうでが、オーディションで舞台俳優の江原由香さんを選び、トレーニングと体づくりに四か月かけたそうです。

短期間で形にするのは無理だとコーチが躊躇していたそうですが、目の色が変わるほどスジが良く、映画の中ではリフティングの選手が役を演じているようにしか見えない程です。

撮影が終わったあとも江原由香さんは競技を続け、８月に開かれた関東大会では２位になったそうです。

俳優にここまで体を張らせるぶん、自分自身の追い込みかたも半端なものではない様です。

脚本を書くときには広島の実家へ帰ってひきこもります。

人間関係を完全に遮断し、第一稿を書きあげるまでの二か月間、だれにも会わずメールの返信もせず書き続けました。

ご飯を作るのも洗濯もすべて母親に任せ、眠りにつくときも脚本のことを考えていたそうです。

自分には家庭のことをうまくやる才能はない、映画さえ撮れればほかのものは手に入らなくてもいい、そう思った気持ちのまま今までやってきたそうです。

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